22.10.18 アーティザンインタビュー~藍染職人 堀尾早敏さん編その1

―まずは「藍染」について教えてください。

植物の「藍」の葉を発酵させた染料「蒅(すくも)」を作りそれで染めます。まず「藍師」と呼ばれる職人が夏に藍の葉を刈り取って乾燥し、秋に「寝せ込み」という発酵作業を行います。5日~1週間に1度ほどの頻度で水をかけながらかき混ぜ、70~80℃の温度を保ちながら発酵を進め、100日間かけて「すくも」ができるんです。そこからは「染師」の仕事です。石灰・ふすま・灰汁を混ぜて「藍液」を作ります。表面にぶくぶくと出てくる泡のようなものは「藍の花」と呼ばれていて発酵のための微生物が中で生きている証です。この状態なら染めてOKという印でもあります。染めものは染料によって繊維を染めるというイメージがありますが「藍」は微生物の力を借りて染めるんです。「藍液」を作るまでの過程に加え、作って長持ちさせるのにも技術が必要です。染めれば染めるほど微生物が少なくなるので、再び餌となるふすまを加えて藍液を育てます。さらに、好みの色になるまで染めるにも「知識」と「経験」がなくてはできません。藍染の色は名前がついているもので48色、色自体は100以上あると言われています。これらの作業の積み重ねが「藍染」なのだと思います。

―やはり「藍染」はとても時間と技術を要するのですね。お値段も納得です。では、堀尾さんと藍染との出会いはいつですか?

東京で暮らしていた時に行きつけのショップですごくかっこいい服に出会いました。その服の青色のインパクトに衝撃を受けたのを今でも覚えています。買いたいけれど手が出ない値段だったことから理由を尋ねると「藍染だから」と言われ、自分で作るしかないと考えました。藍染について調べるとますます興味がわき、藍染を体験できる場所を探して実際に触れた時の感動とともに、これが一生の仕事になるという確信を持ちました。

―たった一着の服で大きく人生が動いたんですね?

修行先を探していたところ本場の徳島県の上板町に縁があり「藍師」と「染師」の勉強を3年ほどしました。修行というと大変なことが多くつらいイメージですが、とにかく楽しかったです。吸収できることはすべて吸収しようという気持ちで取り組みました。そして、地元香川で独立することにしました。津田町は自分が生まれ育った場所です。子供の頃からの遊び場だった歩いてすぐに海に行ける環境が一番だと考えました。以前は漁師さんが使っていた場所を借りて、自分の制作にも専念でき、皆さんに藍染を体験してもらえる最高の拠点ができたと思っています。

―Khimaira(キマイラ)という名前の由来を教えてください。

キマイラという名前はギリシア神話に出てくる怪物です。最初は音の響きが懐かしくもありピンときました。それに加えてライオンの頭・山羊の胴体・竜のしっぽという3つを併せ持つという特徴と、私が職人・アーティスト・デザイナーという3つの顔を持っていることも共通点のように感じました。綴りはCをKに変えたんですが、このことで讃岐弁の「きまい(来まい)」という意味にもとれ、まさにぴったりはまった感覚になりました。

―お仕事をするうえで最も大切にしていること、職人としてのこだわりを教えてください。

依頼の理想を超えていく、想像以上のものを提供することです。驚くような喜びを味わってもらいたいんです。だからこそ制作するときに「これでいいか」はありません。自分が納得し不安のない状態まで作り続けます。そして、これからも自分が「かっこいい」と思った感覚をより多くの人に伝えていきたいです。