23.5.8 SANUKIReMIX1アーティザンインタビュー~丸亀うちわ伝統工芸士 三谷順子さん

「丸亀うちわ」とは400年以上の歴史を持ち、涼をとることはもちろん、
様々な用途に合わせ色や形、図柄、種類から素材に至るまで進化を遂げながら守り継がれてきました。
一本の竹から生み出される繊細かつ鮮やかな職人の手仕事の「技」と「心」が、47ある「骨」と「貼り」の工程の中で光輝くのも魅力です。

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丸亀うちわ伝統工芸士 三谷順子さん

―まずはご自身が丸亀うちわに出会うきっかけからうかがえますか?

丸亀生まれ大阪育ち。結婚を機に再び丸亀で暮らしながらも、「丸亀うちわ」には触れる機会がありませんでした。
そろそろ何か地元の役に立つことをしたいと考えていたところ、丸亀市の広報に掲載されていた「丸亀うちわ後継者育成講座」に参加したことがきっかけです。

―養成講座に参加してみていかがでしたか?

何も知らない状態で始まったので、最初は続けられるか不安でした。ただ、「骨」「貼り」と進むにつれてモノづくりの楽しさに魅了され、頑張って続けたいと思うようになりました。
わからないことはとにかく聞く姿勢が認められて、講座終了後も2人の伝統工芸士(骨:冨羽昇三郎さん、貼り:早川喜美子さん)について学びを続け、以来20年以上に渡って丸亀うちわに携わることになりましたが、まさかここまでくるとは思ってもみませんでした。

―伝統工芸士になるまでには長い道のりがあるのではないでしょうか?

条件としては、原産地内に住んで12年以上丸亀うちわに携わること。しんどいけれど楽しい道のりでした。そののち、知識試験と実技試験・面接をパスすることで認定を受けることができます。
現在、丸亀うちわの伝統工芸士として登録されているのは9人です。

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うちわ工房竹の作業風景

―2001年「うちわ工房竹」を丸亀城内にオープンしたいきさつを教えてください。

講座終了後、仲間たちと丸亀うちわに携わっていく場所が必要でした。また、丸亀うちわをより多くの人に知ってもらう機会も作りたかったのです。
それには、過去には門外不出とされていた職人の技を公開し、実際に制作されているところを見せること、そして自分たちで作ったものを説明しながら販売できることも重要だと考えました。その条件にピッタリだったのが、丸亀城。以前使われていた場所を自分たちの手できれいにしてオープンまでたどり着きました。

―製作体験ができるのも魅力となっているのでは?

予約が必要ですが、国内外からたくさんの方にお越しいただいています。丸亀うちわについて知ってもらえるとても良い機会ですし、知ることで大切に扱う気持ちも生まれます。来られた方にはお接待の気持ちで声をかけ、コミュニケーションを大切にしています。

―丸亀うちわに触れた人の感想で印象に残っているものはありますか?

初めて自分の丸亀うちわを買ってくださった方のことは、20年たった今でもはっきりと覚えています。岐阜から来た40代ぐらいの男性で、2本の丸亀うちわを持って迷っていました。「夏のものだと思っていました。こんなうちわは見たことなかったです」とレジでお話ししてくれたこともうれしかったです。

―お客様の声はどんな存在でしょうか?

お客様との会話で、ヒントをもらえることも多いです。もう少し大きく小さくとか、カバンに入れたいとか。その声を直接聞ける、選ぶ瞬間の表情が見えるのもこの場所ならではのことだと思います。

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工芸士の技が集うショップ

参加した「SANUKI ReMIX」について

―参加を打診された時はどう感じましたか?

アートディレクターの小杉さんが制作現場を見に来たのが始まりです。
うちわ屋さんに協力するという形で依頼を受けたと思っていたのですが、実際はイベントへの出演から制作まで担当することになっていてちょっと慌てました。

―マッチングイベントの日はどんな気持ちで迎えられましたか?

どんな丸亀うちわを作るのか何も決まっていない状況で、披雲閣へ向かいました。インタビューのマイクに驚き焦りながら、丸亀うちわについて説明していた記憶があります。

―製作はどのようにすすんでいきましたか?

小杉さんからデザインをいただいて試作をしていきました。最初の会議では、丸亀うちわの形を変化させたいという希望がありましたので、できれば丸亀うちわとして使えるものにしたいという思いは伝えました。
そこから、県産品コンクールで知事賞を受賞した「そよかぜうちわ」を進化させることに決まりました。また、竹にレーザープリントをすると聞いたときには本当にビックリしました。傷は竹にはご法度。でも傷ではないデザインだと言われてハッとしました。

―丸亀うちわに製品表示をするというのは今までなかったのではないでしょうか?

プロセスをワインのように情報として見せることで、丸亀うちわを大切に扱ってくれるワンポイントになったのかもしれません。色・柄・形ではなく「竹」1本という素材が強調され、そこから47の工程を経る魅力が伝わるのではないかと思います。

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Marugame Uchiwa〈BAR〉

―完成したときはどんなお気持ちでしたか?

完成形が決まったのは1月1日。お正月中休みないなと覚悟しましたが、試作を見たときにすごく喜ばれてうれしかったです。40本以上作るのはなかなか大変でした。骨から作ると1か月以上かかるので、いろいろな工程を同時進行させながら作っていきました。

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展示会場の様子

―会場の展示ブースについてはいかがですか?

ビックリしました。あんな展示は見たことがなかったです。丸亀うちわで人の流れを作り出していたように思います。見る人に動きがある展示。ただ、丸亀うちわは使うものなので、飾っているだけではなく手に取って触ってもらうことを勧めました。丸亀うちわ1つの重さは17~18g、手が疲れないで扇ぐことができることを実感してほしかったのです。BARという名前を付けてもらえたことで、竹1本でここまでできるという証明ができました。小杉さんと、この丸亀うちわでよかったと笑いあえたのもよかったです。

―SANUKI ReMIXを終えて今どんなお気持ちでしょうか?

ニュースに取り上げられたのを見て訪れてくれた方もいて、反響の大きさを感じています。東京から丸亀うちわを買いたいと連絡が来ることもあります。丸亀うちわを作り出す環境にかかわるすべての要素が大切だということをもっと知ってもらう機会ができたことはうれしいこと。
一人一人の伝える力が大きな力になることを実感しました。

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制作に集中する三谷さん

―これからも伝えたていきたいことは何でしょうか?

伝統工芸を続けていくには受け継ぐ存在が必要です。そう感じてもらえる機会を増やすことも大切だと思っています。次の世代に対して、丸亀うちわの制作現場の活気と楽しい仕事であることを示していきたいと考えています。

―今後の目標を教えていただけますか?

あと何年できるかわからないけれど、今回の作品だけではなく「丸亀うちわ」があることをもっと知ってもらうことも役目だと思っています。
全国の9割の生産を誇っていることもまだまだ知られていないと感じているので「丸亀うちわ」を世界中に知ってもらえるきっかけになるよう、いいものを作り続けたいです。