2021.11.12

アーティザン(職人)とアーティストが
交わり、始まる「MATCHING」イベント

かつて、香川を訪れた文化人や名士たちの交流の場だったという「玉藻公園 披雲閣」。重要文化財であり、古くは江戸時代から迎賓館として活用されてきたこの場に、数百年の時を経て今、新たな「交流」が生まれようとしている。

2021年11月12日、披雲閣の会場は、作庭家集団「ひふみ」の手によって、神龍をコンセプトにした装飾が施され、ダイナミックにステージを包みこんでいた。音響演出は、香川のクリエイター集団「瀬ト内工芸ズ。」のメンバーであり、海外のイベントでも活躍する「瀬トVジョッキーズ。」DJ&VJのアブストラクト、かつ息のあったプレイが会場のボルテージを上げていく。

そして、壇上に香川を代表するアーティザン(職人)と世界的なアーティストやクリエイターが一堂に並ぶ。100名を超える報道陣や参加者が見守るなか、熱気と少しの緊張をはらんだ「MATCHING」イベントはスタートした。

アーティザン(職人)の胸の内にある想い

「弾けて混ざれ」。これがSANUKIReMIXの大きなテーマだ。アーティストとアーティザンが共生しながら、新しいアートプロダクトを生み出す。そんな体験を前にしたアーティザン(職人)は、いったいSANUKI ReMIXにどんな価値を見出したのだろうか。

手袋とバックのメーカー「ダイコープロダクト」の川北さんは、「香川県は約130年前から手袋産業が根づいている。そんな歴史ある手袋産業が香川県にあるのだと発信したい」と熱い意気込みを語る。

「野菜 薫る農園」の河田さんは、香川県オリジナルのアスパラガス「さぬきのめざめ」をはじめ、農地に関心を持ってもらうためにひまわりなども育てる。「持続可能な農業をして未来につなげたいんです。今回のプロジェクトをきっかけに香川の色々な産業に目を向けてもらえたら」と河田さん。

「盆栽 北谷養盛園」の4代目であり、「盆栽YouTuber」としても活躍する北谷さんは、「今はYouTubeを通じて世界中の人から『先生』と呼ばれて、こそばゆい気持ちですが(笑)、この素晴らしいものを日本のみならず、世界へ広めていきたい」とのこと。

伝統的な技術に、モダンなデザインを掛け合わせたプロダクトを得意とする「香川漆器 川口屋漆器店」の佐々木さんは、「このプロジェクトで東京の第一線で活躍するシェフの貴重な意見を聞きながら、何より自分がかっこいいと思えるものを作りたい」と胸をふくらます。

「庵治石 たぶん、加工。」の古市さんは、産地の職人としての苦悩を垣間見せた。「庵治石は県内では知名度があっても、全国的には1歩2歩およんでない。産地が向き合う課題に対して、今回の制作物がひとつの答えになることができれば、産地の職人のひとりとして幸せかな、と思う」

「丸亀うちわ」の伝統工芸士である三谷さんは、若い世代への技術の伝承にも力を入れる。「今は、ほとんどがプラスチックで、竹うちわは作り手も含めて少なっているんですけど、後継者になれる人たちがひとりでも増えてくれたら」と期待を寄せた。

アーティストが感じる未知なる可能性

「手袋」「農業」「盆栽」「漆器」「庵治石」「丸亀うちわ」と、香川が誇るべき、そして世の中にもっと知ってほしい地場産業がSANUKI ReMIXには勢揃いする。会場では、その担い手であるアーティザンそれぞれの想いが語られたのちに、アーティストによるトークセッションが始まった。

アートディレクター×丸亀うちわ

アートディレクターであり、カンヌライオン国際広告祭でも「GOLD」の受賞歴がある小杉氏は、「丸亀うちわ自体は知っていましたが、その技術を見たことはなかった。実際に工房を訪れたら、三谷さん自身のファンになったんです。なんて素敵な人だろうって。その人柄を知ると、制作物の感じ方も変わってきて。丸亀うちわはもちろんですが、三谷さんの人柄も世の中に翻訳できるようなものを目指したい」と想いを募らせる。

盆栽師×手袋×盆栽園

世界を舞台に活躍する盆栽師・平尾氏は、手袋メーカー「ダイコープロダクト」の熱意に感銘を受ける。「今日もイベント直前まで、控え室で打ち合わせしていた」というから驚きだ。
「盆栽 北谷養盛園」とは祖父の代から付き合いがあるとのこと。「もともと祖父が北谷養盛園さんから盆栽を買っていて、今回、園に訪れたら祖父の書も残っていましたね。4代目とは同じ盆栽を目指してやってきた同い年。ここで『縁』がようやく巡ってきたか、という感じです」

フードスペシャリスト×農業×漆器

レストラン情報サイトで世界一位を獲得した東京・自由が丘にあるヴィーガンレストラン「菜道」。そのチーフシェフである楠本氏は、「薫る農園」を訪れたことで自信をのぞかせる。「普段は八百屋や市場から仕入れますが、今回は農園も見せてもらって、これが美味しくならないわけがないと思っています」。
さらに漆器からはサスティナブルな可能性も見出す。「もともとヴィーガンはSDGsとの親和性が高いのですが、私が目指しているのはフードダイバーシティ(食の多様性)。それを表現する上でも、漆器は自然由来でサスティナブルなものなので、いいものができるイメージがあります」。

プロダクトデザイナー×庵治石

静岡を拠点に活躍するプロダクトデザイナーの花澤氏は、庵治石にドラマ性も感じているようだ。「プロダクトを作るときに、それ自体の寿命も考えるのですが、石という素材は他の材にはない耐久性があって、そこに壮大なロマンを感じるんです。山から石を切り出す現場も見させてもらいましたが、そこに脈々と受け継がれてきた『営み』みたいなものも伝わってきて、これは単純に職人さんと一緒に作るだけの話じゃないな、と感じています」

見たことのない景色へ

アーティストとアーティザン、それぞれが期待感を膨らませていくなか、アートディレクターの小杉氏は、「必ず新しいもの、これまで見たことがないものができる想像はできている。だからこそプレッシャーもありますね」と気持ちを引き締める。「ひとりの個人が、さまざまな場所でフレキシブルに結合して、ひとつの目的のためにワンチームになる。こういう事をやりたかったんだって改めて気づきました」と小杉氏は、SANUKIReMIXから新たなステージが見えるようになるのではと期待を込める。

主催の一社である「人生は上々だ」のクリエイティブ・デイレクター村上モリロー氏は、「僕は香川の人間ということもあるんですけど、このプロジェクトの主役はアーティザン(職人)だと思っている。なぜこの仕事をしているのか。なぜ技を磨いてくのか。なぜ継承していくのか。そういったことも考えながら、さらに香川のアーティザンと一緒に上を目指していきたい」と抱負を語った。

SANUKI ReMIXは、2022年1月までアートプロダクトの制作過程「CREATION」を経て、2022年1月21日より、合同展示会「EXHIBITION」が開催される。
「玉藻公園 披雲閣」を舞台に始まった現代の文化交流が、これからどんな可能性を見せてくれるのか。「弾けて混ざれ」の先にあるものが、新たなモノづくりの扉を開いてくれそうだ。

執筆・編集/一村 征吾
撮影/脇 秀彦

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